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  • 無垢材張りで彩る天井は空間の名脇役〈追リノベ〉

久しぶりの更新となる第9回目のインタビューは、当社設計で2度目のリノベーションさせていただいたお客様(以下、Sさん)です。2014年にフルリノベーション後、6年ぶりに2回目のリノベーション工事(以下、追リノベ)に至った経緯と今後の展望について伺いました。昨今の世界情勢で、室内での過ごし方を各々が見直す潮流の中、心落ち着くお部屋作りの参考になれば幸いです。

〈after〉天井一面に無垢パネル材を張りました

物件探しのお手伝いから始まったSさんとのご縁。逗子で物件見学を共にしたり、現地で建物の魅力をお互いに共有することで、「提案のデザインや建築の知見への信頼はあるが、それだけではなく、好みを理解してくれて、この物件に魅力を感じてくれて、良いと思う価値観が共有できる人と同じ志を持ってやるのが、結果として満足度に繋がると思っている。」というSさん。双方向にアイデアを洗練させていく〈協業〉が楽しくて2回目の工事も弊社に依頼してくださいました。

エンツォマリの作品をはじめ、お部屋に馴染む各国のインテリア

ベルリン在住時代、築100年の建物での生活経験や住む土地を転々とする内に、職住近接の利便性よりも住環境内における快適性に傾倒する嗜好に変化していったそう。中古戸建だと建物維持管理や想定外の修繕費の不安があり、賃貸だと自分好みに空間が作れない。結果、ポテンシャルのある物件を購入し手持ちのインテリアに合わせて内装を整えようと思ったのが、そもそものリノベーションを選択した流れだそうです。

〈before〉2014年当時の内装(フルリノベーション:弊社設計)

追リノベ前の天井は白塗装。床のモルタル、建具や玄関周りはオーク材で、素材自身が持つ表情を感じる仕上がりの内装で既に十分バランス良く整っていました。さらにチークのテーブルやパイプ椅子、植物や民族系什器、ヴィンテージラグやアートなど、一見バラつきそうなモノたちがSさんの経験、センスで上手に纏められた空間がそこにはありました。

〈before〉2014年当時の内装(フルリノベーション:弊社設計)

家具類は賃貸暮らしの時から徐々に集めていたというSさん。「トレンドを追いかけてというより、古いものを長く使っていくという価値観が一番しっくりくる。何かに影響を受けてというよりも、色んな経験で得た知識の積み重ねかもしれない。」馴染んだ空間として成立しているのは、時間をかけてセレクトしているから。Sさんの貫いたスタイルに感銘を受けました。

〈左:before 右:after〉

今回の工事箇所は【天井】と【玄関下足棚】の2箇所です。
それぞれのアップデートによる使い心地を機能面と意匠面からお話ししていただきました。

天井はパネル材の裏に断熱材を充填したことで、1Fの音の反響がなくなり、同じオーディオセットでも音質が向上。DJのご経験もあるSさんがいうので間違いないでしょう。季節柄、断熱効果はまだ感じられていないので、冬がまた楽しみですね。光の反射が少ない分少し暗くなってはいるけど、落ち着いた雰囲気と共に空間としての質が上がり、素材同士のバランスも更に整ったように感じるといいます。工事前の白天井を見ていた私でも、大きな変化、というより元々この状態であったかのようなインテリアの調和を感じました。床、壁と違い普段触れる部分ではない天井。「天井見上げては絶対こっちの方が良かった」というSさん。空間の中に線(目地や杢目)が増え、表情が加わることによる密度の向上。和室から洋室のような大幅な空間の変化とはまた異なる繊細な感覚を伝えていただきました。

〈after〉天井吊りのグリーン、良く合いますね

お住いが海の近くということもあり、除湿剤を入れてもそれに水が溜まるくらいの湿度がある環境。今までの下駄箱は収納確保の奥行きがあった分、若干圧迫感があったところを、今回はブラケットと棚板という構成にすることで壁付近に通気性を持たせながら収納力を確保。棚板には玄関フローリングと同じ板を使用し、ブラケットは既存のインテリアと同色で金物を設計しました。収納内のカビ問題が改善され、空間としても開放的になったといいます。照明が隠れ少し暗くなったけど、また照明器具を空間に合ったものをセレクトしたいとSさん。既に次のことを考えていらっしゃいました。

〈左:before 右:after〉

「空間の変化による感覚の変化も楽しめ、愛着も湧く。作って完了でもなく悪いところを修復でもなく、アップデートしていくことが楽しく暮らしていく秘訣。衣食住というように住まいは重要な要素だけど、食や服や遊びは年を追うごとに楽しさが変化するように、家もずっと関わり続け、生活に向き合っていけば、より家にいることが楽しく、愛着を持ち続けることができるのではないか。」〈家〉に拘る意味、楽しみがこのお言葉に詰まっていると感じました。

〈after〉開放感のある玄関スペース

今回の追リノベを経て、「住環境を豊かにし続けていくことの楽しさを体感した。」とSさん。継続して手を入れていくことで更に愛着が湧くし、そのことで家にいることが楽しくなる。今回のように色々付き合って行くと、また次どこかを更新した際に楽しめることがわかったので、できれば生涯住環境に少しずつ手を入れ続けて、家で過ごす時間も楽しく過ごしたいそうだ。次は1階の床材を粗めのタイルにしたいそう。現段階のモルタル床が嫌なわけではなく、タイルになった状態を見てみたいという気持ち、欲望ですね(笑)。今は、当初は敬遠していた戸建への興味も出てきて、戸建リノベーションもしてみたいという。

〈after〉

「ローンに追われて現状維持しかできない家のためだけに働くことは全く望まない。お金が大きな負担にならない程度に、ファッションや食事と同じように楽しむ感覚で衣食住遊の調和が取れる住環境作りに積極的に関与していきたい。」ライフスタイルに調和を。お部屋で感じた心地よい優しさは控えめでありながら挑戦的なSさんの人柄そのものでした。


< インタビュアー : 大山・櫻井(TATO DESIGN) >